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札幌地方裁判所 昭和60年(ワ)759号 判決 1987年5月08日

札幌市北区新琴似8条11丁目5番1号

原告

藤枝重雄

右同所

原告

藤枝直子

東京都千代田区霞が関1丁目1番1号

被告

右代表者法務大臣

遠藤要

右指定代理人

菊地至

外3名

主文

一  原告らの請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告らの負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告は原告藤枝重雄に対し金35万円を支払え。

2  被告は原告藤枝直子に対して金15万円を支払え。

3  訴訟費用は被告の負担とする。

二  請求の趣旨に対する答弁

主文同旨

第二当事者の主張

一  請求原因

1  損害を生じるに至った経緯等

(一) 原告藤枝重雄(以下「原告重雄」という。)は,昭和32年5月1日札幌医科大学附属病院脳外科において脳腫瘍の手術を受け,それ以来左半身が不自由となった者であり,原告藤枝直子(以下「原告直子」という。)は,その妻である。

(二) 昭和51年になって,原告重雄は身体障害者手帳を所持することにより所得税,住民税の控除を受けられることを知り,同年8月16日身体障害者であることを証明する診断書をとり,同年10月28日札幌市から身体障害者手帳の交付を受けた。

(三) 原告重雄は昭和52年2月26日札幌北税務署長に対し身体障害者控除を20万円として昭和51年分の所得税の確定申告をした。

この際,原告重雄が昭和32年分から昭和50年分までの還付について尋ねたところ,札幌北税務署の担当職員は医師の診断書と嘆願書を税務署長に提出すればよいと教示した。

(四) 原告重雄は昭和53年3月13日札幌北税務署長に対し身体障害者控除を23万円として昭和52年分の所得税の確定申告をした。

この際,担当の村田職員は,昭和32年分から昭和50年分までの還付について,嘆願書を提出しても還付されるかどうか判らないが,還付されるとしても昭和47年分か昭和48年分からで,その当時の診断書と源泉徴収票を付した確定申告書を提出するようにと教示した。

(五) 右教示が前年の教示と異なるため,原告直子が札幌北税務署の相談室に確認したところ,還付は昭和48年分からと言われた。

(六) 右のとおり札幌北税務署の教示が一定しないため,原告重雄が昭和53年3月23日札幌国税局所得税課に回答を求めたところ,同課から還付はできないとの回答を得た。

(七) 昭和53年分の所得税の確定申告の時期になり,原告重雄は札幌北税務署の金子統括調査官に昭和50年分以前の還付につき文書で回答するように求めた。金子統括調査官は「還付税額の請求期間と障害者控除の適用について」と題する書面を原告重雄に送付してきたが,原告重雄はその内容に納得することができなかった。

(八) そこで,原告重雄は,昭和54年11月5日付の文書で札幌北税務署長に対し文書回答を求めたところ,同署の原総括上席調査官から面談を求められたので,同年12月19日これに応じた。原総括上席調査官は,今の段階で還付できるのは昭和49年分のみでこれに対する申告は昭和54年12月31日までにしなければならないこと,昭和49年分の還付については本来なら昭和49年当時の診断書が必要だが,昭和51年にとった診断書でもそれによって昭和49年当時の状況を判断できるかもしれないので右診断書の写しを送付して欲しい旨述べたほか,昭和50年分については署長と相談したうえで答える旨回答したが,嘆願書による還付の取扱いについては何ら回答しなかった。

(九) 原告重雄が,原総括上席調査官の説明に従い昭和51年8月16日付診断書意見書の写しを送付したところ,札幌北税務署から昭和49年分の確定申告用紙が送付されてきたので,原告重雄はこれに必要事項を記入し,昭和54年12月28日付で原総括上席調査官宛郵送した。

(一〇) 原告重雄は,昭和55年2月7日付で札幌北税務署長から昭和49年分の国税還付金支払通知書を受領したが,右通知書には還付加算金の記載がなかったため,同年3月3日付で同署長に対し異議申立てを行った。

(一一) 原告はさらに同年4月26日付で札幌国税不服審判所長に対し,「身体障害者控除に対する審査請求の件について」と題する書面を提出したが,右書面は同年5月6日受け付けられないとして返戻された。

(一二) 同年5月7日付で札幌北税務署長から還付加算金は付加されない旨の回答書が送付された。

(一三) 同年8月13日札幌北税務署所得税第1部門の中村総括上席調査官から原告重雄の勤務先に電話があり,原告重雄の昭和50年分の所得税の確定申告について調査した結果,退職金の関係で計算違いがあり,9,100円納税不足になっている旨伝えられた。さらに,同年8月28日中村総括上席調査官は原告重雄に対して電話で,右9,100円について年数が経過しているので納めなくてもよい,納めたかったら納めてもよい旨伝えた。原告両名は,このような対応に不審を抱き,同月30日中村総括上席調査官に対し昭和50年分の所得税の確定申告の関係書類の送付方を依頼するとともに,中村総括上席調査官から確定申告の日から5年内であれば修正申告ができる旨の説明を受けたので,原告重雄は昭和50年分の所得税の修正申告用紙の送付方も依頼し,これらの書類は昭和55年9月2日原告重雄に送付された。

(一四) 原告重雄は,これまでの札幌北税務署の応対について明確な回答を得るべく,同年9月28日付で札幌北税務署長に対し文書を送付した。同年10月29日になって札幌北税務署の中薮統括官から電話があり,税務署はいちいち文書回答はしない,また還付を嘆願書により認める取扱いは法規になく,そのような取扱いを示唆した職員がいたとすればそれは誤まりである旨言われた。

(一五) 原告重雄は同年12月10日付で札幌北税務署長に対し昭和50年分の所得税の修正申告書を提出したところ,同署長から昭和56年1月6日付の更正すべき理由がない旨の通知書が送付されてきた。そこで原告重雄は同年1月25日付で札幌北税務署長に対し異議申立てを行ったところ,同署長は同年4月2日右異議申立てを却下する旨の決定を行った。

(一六) 原告重雄は右更正すべき理由がない旨の通知について,同年4月13日付で札幌国税不服審判所長に対し審査請求をしたが,札幌北税務署長は同年7月7日右更正すべき理由がない旨の通知処分を取り消し,その後右取消通知書と「お知らせ」と題する書面が原告重雄宛郵送された。そして,札幌国税不服審判所長は同年7月13日原告の右審査請求について原処分庁において原処分を取り消していることを理由にこれを却下する旨の裁決をした。

2  札幌北税務署職員の違法行為

右に述べたとおり,札幌北税務署の職員は,原告重雄の身体障害者控除による過年度分の還付について,初めの1年分は申告書の提出により,後の4年分は嘆願書と身体障害者手帳の写しの提出によりこれを認める取扱いがあるのにこの取扱いを無視し,誤まった教示をしたばかりではなく,原告の度重なる税務相談,回答依頼に対してその度ごとに不統一な回答を為し,原告らを困惑させた。

3  損害

原告らは,札幌北税務署職員の右違法行為により次のような損害を受けた。

(一) 原告重雄

(1) 嘆願書と身体障害者手帳の写しの提出により還付されるべきであったのに,この取扱いを無視されたため,もはや消滅時効が完成し還付されないことが確定したことによって原告重雄が受けた別表(一)(二)記載の還付金及び還付加算金の合計額相当の損害。

合計 25万9600円

(2) 慰謝料 金15万円

原告重雄は札幌北税務署職員と交渉中,同職員らの誤まった教示及び不統一な応対により精神的苦痛を受けたのであり,この苦痛を慰謝するには金15万円をもってするのが相当である。

(二) 原告直子

慰謝料 金15万円

原告直子も,原告重雄と同様,札幌北税務署職員と交渉中,同職員らの誤まった教示及び不統一な応対により精神的苦痛を受けたのであり,この苦痛を慰謝するには金15万円をもってするのが相当である。

4  被告の責任

前記2の札幌北税務署職員らがした行為は違法な公権力の行使であって,故意又は過失に基づくものであるから,被告は,国家賠償法1条に基づき原告らが受けた損害を賠償すべき責任がある。

よって,原告重雄は被告に対し,還付を受けられなくなったことによる損害25万9600円のうち損害賠償金として20万円及び精神的損害に対する損害賠償金として15万円,合計35万円の支払いを求め,原告直子は被告に対し,精神的損害に対する損害賠償金として15万円の支払いを求める。

二  請求原因に対する認否及び被告の主張

1  請求原因に対する認否

(一) 請求原因1(一)のうち,原告直子が原告重雄の妻であることは認めるが,その余の事実は知らない。

同(二)のうち,原告が昭和51年10月28日札幌市から身体障害者手帳の交付を受けたことは認めるが,その余の事実は知らない。

同(三)のうち,原告が昭和52年2月26日札幌北税務署長に対し身体障害者控除を20万円として昭和51年分の所得税の確定申告をしたことは認めるが,その余の事実は知らない。

同(四)のうち,原告重雄が昭和53年3月13日札幌北税務署長に対し身体障害者控除を23万円として昭和52年分の所得税の確定申告をしたこと及び同署職員が過年度分の還付について源泉徴収票と診断書を添えて確定申告する方法を教示したことは認めるが,その余の事実は知らない。

同(五)の事実は知らない。

同(六)のうち,札幌国税局所得課が原告に対し還付はできない旨答えたことは認める。なお,原告ら主張の日に札幌国税局所得税課では,原告直子から電話で原告重雄は昭和48年分ないし昭和50年分について障害者控除が受けられるか否か照会を受けた。そして,これに応対した同課所得税第1係長の長谷川信は,原告直子から原告重雄は昔脳腫瘍の手術により半身不随となったが,昭和51年10月身体障害者手帳の交付を受けるまでは完治するということで治療を続けていた旨の説明を受けたうえで,原告重雄の場合昭和48年分ないし昭和50年分の還付は認められないと判断し,その旨回答した。

同(七)のうち,昭和53年分の所得税の確定申告の時期に原告重雄が金子統括調査官に対し,昭和50年分以前の還付について文書回答を求めてきたこと及び金子統括調査官が「還付税額の請求期間と障害者控除の適用について」と題する書面で回答したことは認めるが,その余の事実は知らない。

同(八)のうち,原告重雄が札幌北税務署長に対し文書回答を求めてきたこと,原総括上席調査官が原告と面接したこと(但し面接したのは12月18日である。)及び同調査官が昭和49年分の申告は昭和54年12月31日までにしなければならない旨説明したことは認める。札幌北税務署長は,従来の経緯から文書で回答しても原告重雄の納得を得られないと考え,原総括上席調査官に面接したうえ十分説明するよう指示したものである。原総括上席調査官は,原告重雄に対し,障害者控除の適用要件については,障害者控除の適用を受けるためには原則として身体障害者手帳の交付を必要とすること,手帳の交付を受ける前は手帳交付の申請中であるか,手帳の交付を受けるために必要な医師の診断書を有していなければならないことなどを,還付請求の期間については,国税通則法74条1項により5年と定められていることなどを詳細に説明した。そして,昭和49年分の還付請求権については,昭和54年12月31日をもって消滅時効が完成することから,原告重雄の場合要件を満たしているかどうかその場で判断できないことを断わったうえで,昭和49年分の申告用紙を送付することを約したのである。また,昭和50年分については原告重雄が同年分から確定申告義務のある者となっており,したがって更正の請求となるが,更正の請求が1年以内に限って認められることからもはや更正の請求はできないので,職権による更正が可能か否か検討する旨告げたのである。

同(九)の事実は認める。

同(一〇)の事実は認める。但し,この国税還付金支払通知は原総括上席調査官の誤認に基づいて為されたものであり,また,札幌北税務署長は不服申立ての対象となる処分をしていない。原告重雄の「異議申立て」の実質は不服審査を求めるものでなく,昭和49年分の国税還付金支払通知書に還付加算金の記入がなかったこと及び昭和32年分から昭和50年分までの障害者控除について照会するに過ぎないものであった。

同(一一)の事実は認める。

同(一二)の事実は認める。

同(一三)のうち,中村総括上席調査官が原告重雄に対し,昭和50年分について仮に障害者控除を認めても9,100円の納税不足になっていることを電話で説明したことは認める。札幌北税務署で昭和50年分について職権更正が可能か否か検討したところ,同年分の原告重雄の確定申告には源泉徴収税額の重複計算があり,仮に障害者控除を職権更正により認めたとしても9,100円納税不足となることが判明した。

同(一五)の事実は認める。原告重雄の提出した修正申告書は障害者控除の適用により所得税額の還付金額が増加する内容のもので,国税通則法19条が規定する修正申告に該当しない不適法なものであったが,札幌北税務署長はこの文書を国税通則法23条1項に規定する更正請求として取り扱うことにしたのである。

同(一六)の事実は認める。札幌北税務署長は,原告重雄が審査請求において「更正の請求はしていない」旨の申立てをしていることを知り,更正の請求であることを前提とする更正すべき理由がない旨の通知処分を取り消したのである。

(二) 請求原因2ないし4はいずれも争う。

2  被告の主張

(一) 還付金等の損害について

原告重雄は,昭和50年分以前の所得については,そもそも障害者控除を受けることのできなかったものである。すなわち,所得税法上障害者控除を受けるためには,当該年の12月31日の現況において,心身喪失の常況にあるか失明者その他の精神又は身体に障害があるとの実質的要件を充たしているうえに,同法施行令10条1項に定める形式的要件の少くともいずれか一つに該当しなければならない(所得税法85条,2条1項28号)ところ,原告重雄は昭和50年以前は障害が永続しないものとして治療を受けていたものであるからそもそも実質的要件を充たさないうえ,身体障害者手帳の交付も受けていないのであるから,所得税法上の障害者に該当しないことが明らかである。もっとも,所得税基本通達は次の二要件のいずれにも該当する者は,これを障害者として取り扱うことができるとしている。

(1) 確定申告書,給与所得者の扶養控除等申告書等を提出する時において,身体障害者手帳等の交付を申請中であるか,又はこれらの手帳の交付を受けるための所定の医師の診断書を有していること

(2) その年12月31日その他障害者であるかどうか判定すべき時の現況において明らかにこれらの手帳に記載され,又はその交付を受けられる程度の障害があると認められること

この基本通達は,所得税法施行令の定める形式的要件を厳密に解すると,年末近くになって身体上の障害を負ったために事実上身体障害者手帳の交付を受ける時間的余裕がない者などが控除を受けられなくなるなど実情に即さない事態が生じることから,身体障害者手帳の交付を受けるための手続をしているなどの努力をしていながらも12月31日までにその交付を受けられない者を救済するために制定されたものである。原告重雄は,昭和46年から昭和50年までの間身体障害者手帳の交付を受けるための手続をしたことがなく,また交付を受けるために必要な医師の診断書を有していなかったのであるから,この通達によっても障害者として取り扱われないことになり,結局,還付を認めなかった札幌北税務署の取扱いは正当であって,原告の請求は理由がない。

(二) 精神的損害について

慰謝料請求が認められるためには,被害者の受けた苦痛が平均人を基準として社会生活上万人の受忍限度を超え,金銭で慰謝されるに値するものでなければならないと認められるところ,札幌北税務署の職員が原告らに金銭で慰謝するに値する苦痛を与えた事実はない。

三  被告の主張に対する認否

1  原告重雄

被告の主張のうち原告重雄が昭和46年から昭和50年までの間身体障害者手帳を有していなかったこと及びその交付を受けるための手続をしたことがなくまた交付を受けるために必要な医師の診断書も有していなかったことは認めるが,その余は争う。

2  原告直子

被告の主張は争う。

第三証拠

証拠関係は,本件記録中の書証目録記載のとおりであるから,これを引用する。

理由

一  還付金及び還付加算金の支払いを受けられなかったことによる原告重雄の損害賠償請求について

原告重雄は,要するに,札幌北税務署職員の誤まった教示,不統一な回答のために,昭和46年分ないし昭和50年分の所得税及び昭和47年分ないし昭和49年分の地方税について障害者控除を受けなかったことに基づく還付金及び還付加算金の支払いを受けられず,これと同額の損害を蒙った旨主張すると解される。

ところで,所得税法上,障害者控除を受けるためには,当該年の12月31日の現況において障害者に該当しなければならない(同法85条)とされ,ここにいう障害者とは,心身喪失の常況にある者,失明者その他精神又は身体に障害がある者で,政令で定めるものをいうとされており(同法2条1項28号),右規定を受けて所得税法施行令10条1項は,右の政令で定める者は同項1号ないし6号に掲げる者とする旨規定するところ,原告重雄が昭和46年から昭和50年までの間身体障害者手帳を有していなかったことは原告重雄と被告との間で争いがないから,その間同人が所得税法施行令10条1項2号に掲げる者に該当しないものであることは明らかであり,他に右の期間同人が同条同項各号に掲げる者に該当するものであることについて主張,立証はない。もっとも,弁論の全趣旨によって真正に成立したものと認められる乙第21号証によれば,税務実務においては所得税基本通達2―38により身体障害者手帳又は戦傷病者手帳の交付を受けていない者であっても,その者が確定申告書,給与所得者の扶養控除等申告書等を提出する時において,これらの手帳の交付を申請中であるか,又はこれらの手帳の交付を受けるための所定の医師の診断書を有していること及びその年12月31日その他障害者であるかどうか判定すべき時の現況において明らかにこれらの手帳に記載され,又はその交付を受けられる程度の障害があると認められることの二要件が満たされる場合には,所得税法施行令10条1項2号又は3号に掲げる者に該当するものとして差し支えないとの緩和的取扱いがされているのであるが,原告重雄が昭和46年から昭和50年までの間身体障害者手帳の交付を受けるための手続をしたことがなく,また,その交付を受けるために必要な医師の診断書を有していなかったことは原告重雄と被告との間で争いがないから,この基本通達による緩和的取扱いによっても,原告重雄は昭和46年から昭和50年までの間所得税法上の障害者に該当したということはできず,障害者控除を受けることができる者にあたるとはいえない。

また,地方税法は障害者控除を受けられる者の範囲について所得税法と同様の規定を設けている(道府県民税につき同法34条6項,23条1項9号,同法施行令7条,市町村民税につき同法314条の2第6項,292条1項9号,同法施行令46条,7条。但し,地方税にあっては前年の12月31日の現況による。)のであるから,その範囲は所得税法上のそれと同一になるべきところ,先に判示したとおり原告は昭和46年から昭和50年までの間所得税法上の障害者控除を受けることができる者にあたるとは認められないのであるから,昭和47年分ないし昭和49年分の地方税についても障害者控除を受けることができる者にあたるとはいえない。

以上のとおり,原告重雄はその主張する年分の所得税,地方税について障害者控除を受けることができたとはいえないのであるから,右各年分について障害者控除を受けなかったことに基づく還付金及び還付加算金の支払請求権が発生したということはできない。

なお,所得税については当該年の,地方税についてはその前年の12月31日の現況によってそれぞれの法令の定める障害者に該当しなければ障害者控除を受けられないのであるから,ある年の12月31日に身体に障害があり,その後所得税法施行令10条1項各号或いは地方税法施行令7条各号に規定する要件が満たされることになったとしても,さかのぼって障害者控除を受けなかったことに基づいて還付金及び還付加算金の支払いが受けられるものではない。

以上判示したとおり,原告重雄の昭和46年分ないし昭和50年分の所得税,昭和47年分ないし昭和49年分の地方税について障害者控除を受けなかったことに基づく還付金及び還付加算金の支払請求権が発生したとはいえないのであるから,これが発生したことを前提とする原告重雄の請求は,その余の点について判断するまでもなく,明らかに理由がない。

二  精神的損害に対する慰謝料請求について

原告らは,要するに,原告重雄の所得税の還付について札幌北税務署の職員と交渉中,同職員らの誤まった教示及び不統一な応対があり,これにより精神的苦痛を受けたと主張するのであるが,慰謝料請求が認められるためには,被害者の受けた苦痛が受忍限度を超え,金銭で慰謝されるに足りるものでなければならないと解されるところ,原告重雄はそもそも所得税の還付を受けるための要件を満たしていたとはいえないこと(原告重雄との関係では先に判示したとおりであり,原告直子との関係では原告重雄が右要件を満たしていたことを認めるに足りる証拠はない。)を考慮すると,仮に,その交渉の過程において原告ら主張のような事実があったとしても,そのことによって原告らが受忍限度を超え,金銭で慰謝されるに足りる精神的苦痛を蒙ったとは到底認められず,他にこれを認めるに足りる証拠もない。

したがって,原告らの慰謝料請求はその余の点について判断するまでもなく,明らかに理由がない。

三  以上のとおり,原告らの本訴請求はいずれも理由がないから棄却し,訴訟費用の負担について民事訴訟法89条,93条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 北澤晶)

<以下省略>

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